「いけいけ僕らの魔王様!」



 朝。

 ふと目を覚ました少女は窓から差し込む光に微笑む。

 布団は人肌を吸い、まどろみをなかなか離してくれない。

 もう少しくらい眠っていても、誰も怒りはしない。

 そう思うと、再び眠気が襲ってきた。

 ころんと寝返りを打つと、軽く額に何かがぶつかったことに気付く。

 なんだろうと思って目を開けてみる。

 ぼやけた視界に映ったのは、銀髪。



「……きゃあああああああああーー!!」



 一気に目が覚めた。

 目の前の人物を蹴り飛ばし、ベッドの外に放り出す。



「な、なななんだなんだ、どうしたことだ?」



 蹴り飛ばされた男は、ぐしゃぐしゃになった頭のまま辺りを見回した。

 整った顔立ちがまるで台無しである。



「一体何があっぷぇっ!」

「ばかー!」



 少女が放り投げた枕が男の顔面に直撃。



「ちょっと待て、落ち着くのだ! 私が一体何をした?」

「勝手に私のベッドに入ってくんな!」

「それは君が『心細いから一緒に寝てほしい』と」

「……」

「言ってくれたら嬉しいなと思ってさ!」

「出てけー!」



 断!

 少女の投げた剣が男の顔、すぐ横の壁に突き立った。

 はらりと髪が数本落ち、男の顔が蒼白になる。



「お、おいおい。いくら聖剣の力が私には効かないとはいえ、物理的なダメージはあるんだぞ」

「私に精神的ダメージ負わせといて何言ってる! さっさと出てけ!」



 少女の勢いに気圧され、男は部屋を追い出されてしまった。

 と、やれやれと顔を上げた先に見知った顔がいた。

 金髪の美しい美少女で、朝も早いというのに眠気のひとかけらも見られない引き締まった表情である。

 彼女も彼に気付いたらしい。



「やっぱりここにいましたか。探しましたよ。死んでください」

「せめて会話の前後を繋げてくれ」

「おかしいですね。私はいつでもあなたのことを殺してもよいと言われていたはずですが」

「そんなバカな」

「いえ、確かです」



 少女は無表情になって告げる。



「その時のあなたの発言を一言一句間違わず復唱します。――『私は少女のためならいつでも死のう』」

「少女のために死ぬならともかく、少女のせいで死ぬのはまっぴらごめんだな……」

「ところで魔王様。お聞きしたいことがあるのですが」

「彼女の下着なら薄いピンクだったぞ」

「今すぐ殺されたいようですね。彼女の代わりに給料の二割で請け負いましょう」

「魔王軍は財政難が続いているから勘弁してくれ」



 彼――魔王は苦笑しながらホールドアップ。



「私が聞きたいのは、彼女の様子です。どうですか?」

「そうだな。心も体も不安定で、一番少女らしい私好みの……そんな怖い顔をするな、私が悪かった」



 咳払いをして、魔王は改めて口を開く。



「私に対する攻撃意志は薄れてはいるものの消えてはいないようだ」

「仕方がありませんね。ずっと私達魔族は人類の敵だと刷り込まれてきたようですから」

「実際、かつては随分非道なこともしてきたからな。そのしわ寄せが今来ているということだろう」



 ほんの僅かな沈黙。

 少女はその空気を切り替えるかのようにはっきりとした声音で



「朝食の準備がもうすぐ整います。早く来てくださいね」

「ああ、わかったよ」

「彼女は私が責任を持ってお連れします」

「付き添おうか?」

「そのお気持ちだけでも迷惑です」



 魔王は苦笑しながら廊下を歩いていった。

 それを見送ってから、少女は部屋の戸を軽くノックする。



「おはようございます勇者さん。朝食の準備が整いますので、ご案内します」











 魔王軍では、今後の運営の参考にアンケートを実施している。

 その中で最も注目を浴びた質問は『あなたが今までで一番苦しかった戦いは?』である。

 王国の軍隊と戦ったとき? 否。

 別の魔王軍と競り合ったとき? 否。

 それらの意見ももちろんあったが、最も多かった意見は『魔王城での食料争奪戦』だった。



「バイキング形式なんですね」

「魔王軍内部ではハリケーン形式と呼ばれています」

「どうして?」

「後には残骸が残るのみですから」



 食堂に連れられた少女――勇者と、金髪の少女が食堂の隅でそんな会話をしている。

 二人とも既に料理を確保しており、慎ましやかに食事を取っていた。



「よぉお二人さん! 相席してもいいか?」



 と、列から飛び出してきた半獣の男が寄って来た。

 青光りする体毛が美しいワーウルフである。

 勇者はその魔物を知っていた。

 なにせ、彼は戦場で幾度となく戦ってきた魔王軍の幹部であるからだ。



「あ、その……」

「もちろん結構です」

「おっし、それじゃ邪魔するぜ」



 勇者が言いよどんでいる間に場が進み、ワーウルフは勇者の隣にどっかと腰掛ける。



「そんな気まずそうにすんなって! 戦場で会ったら敵だが、食堂で会ったら……敵か!」

「もう料理を取り終えているのだから、敵じゃないでしょう」

「それもそうか! つーわけで、最悪でも敵じゃないらしいぜ。なら仲良くするってことでここは一つ、な!」

「う、うん……ありがと」



 戸惑いながらも勇者は微笑を返す。

 それに気を良くしたのか、ワーウルフは取ってきた料理をむしゃむしゃと食べ始めた。



「それにしても、不思議ですね」

「なにがです?」

「私はたくさんの魔物を倒してきました。それなのにここの魔物は私を恨むどころか、すごくよくしてくれます」

「トップがトップですからね」



 金髪少女はしれっとそんなことを言った。

 とりあえず、彼女が魔王のことを卑下しているのはよくわかった。

 それでも魔王に仕えているのは仕事だからなのか、他に理由があるのか。

 勇者にはそれを知る由もない。



「……苦労してるんですね」

「私の髪が金ではなくなる日も近いかもしれません」



 二人はしばらく見詰め合ってから、苦笑し合った。











 勇者がなぜ魔王の城に住んでいるのかというと、話せば長くなる。

 彼女は魔王を倒しに魔王城へやってきたのだが、既に邪悪の存在ではなくなっていた魔王に敗北したのだ。

 そして「手元に置いた方が安心」という魔王の言葉で、ここに住まわされることになったのである。

 もちろん、当初は寝首をかいてやるつもりだった彼女だが、今ではその決心はぐらついていた。

 なにしろ、肝腎の魔王が既に邪悪でないことは、彼女の聖剣が通じないことで立証済みだ。

 魔王軍の侵略は進んでいるものの、それは最早共生と言うに近く、この辺り一帯は平和そのものだったりする。

 『無茶はしない。殺生はしない。残業はしない』が魔王軍のモットーだ、ということを勇者はここで初めて聞いた。



(なんていうか、私が聞いてた話と随分違うよね……)



 魔王といえば、悪逆非道の代名詞。

 自分の倒すべき敵である――と幼い頃から教えられてきた。

 しかし、この現実はどうだ。

 この辺り一帯の魔物は、人々を無闇に襲ったりしない。

 仮に襲撃をする場合も、『〜時に○○を襲います』と告知まで出す始末だ。

 そしてそのボスである魔王のライフワークはガーデニングに裁縫だという。

 料理だけは苦手らしく、毎日昼過ぎには近所の民家に赴いてお菓子をご馳走になっているとか。



「……はぁ」



 彼女が溜息をついてしまうのは無理もない。

 今までずっと人のために生きてきた彼女の目的が、急になくなってしまったのだ。

 自分を見つめ直す機会がきたのかもしれない。

 そう感じながらも考えはまとまらず、魔王城の中庭を眺めながら勇者は再び溜息をつく。



「……何の用」

「む、気付いていたのか」



 壁の影からひょっこりと魔王が顔を出す。



「気配消してもなかったくせに。まあ、ここはお前の家なんだから不思議じゃないけど」

「そうかもしれないな」



 魔王は勇者の隣まで歩いてきた。

 肩を並べる勇者と魔王。

 奇妙な取り合わせだった。



「……今は何も言わないのか?」



 無言のままでいる魔王に、勇者が上目遣いに尋ねる。



「言葉を尽くすだけが愛ではない」

「……魔王のくせに、人間みたいなことを言うんだね」

「君こそ、人間なのにまるで魔族のような物言いだな」



 勇者はその言葉に何も言わず、視線を元に戻す。



「……わからなくなったんだ」



 どれほどの時が流れただろうか、勇者が不意に口を開いた。



「お前を倒すために私はここまで来た。私はお前や魔物を倒すべき敵だと教えられてきたから。

でも、実際は違った。お前達は人間と共存しようと日々努力していた。だから、どうしたらいいかわからなくなった」

「君は私達と敵対したいのかい?」

「そんなわけない。私は平和を祈ってここまで来た」

「それなら、それでいいじゃないか」



 勇者は再び魔王に目をやる。

 彼は穏やかな表情をしたまま中庭を見下ろしていた。

 広大な花と木々の楽園。

 魔王自身が手間隙かけて手入れをしている自慢の庭だ。



「互いに平和を祈っているのなら、協力すればいい。確執はゆっくり時間をかけて無くしていけばいい」

「そうかもしれないな」



 勇者の顔にようやく笑顔が戻った。

 魔王に慰められる日が来ようとは、彼女もここに来るまでは想像すら出来なかったことだ。



「それじゃ早速確執を埋めていくために、今日から正式に私の寝床は君と一緒に」

「却下」

「それじゃ、体の寸法を測らせてくれ。君のためにドレスをあつらえようと思うからね」

「ありがとう。ちょっと嬉しいかもしれない。殺していいか?」

「……早速確執は埋まってきているようだね」



 そんなのどかな正午前だった。











 人間と友好関係を築こうと日夜頑張っている魔王軍。

 だが、明るい話題ばかりではない。

 人間界に降り立った魔王の中に、人間を下等と見なし滅ぼそうとしている者も少なくないのだ。

 戦闘能力で魔族に匹敵する人間など、現在魔王城にいる勇者などを含めた極少数しかいない。

 故に、他の魔王軍から人間を守るために軍を派遣したりもするのが彼らである。



「東の魔王が近々都攻めをするそうですね」



 と、金髪少女。

 彼女は魔王軍のナンバーツーであり、魔王城では彼女がほとんどの指揮をしている。

 魔族としては若輩ながらその判断は迅速かつ的確なため、信頼は厚い。



「はい。偵察の任に就いていた者から大規模な軍編成が行われているとの情報が入りましたので確実かと」

「では、こちらも軍を割く他ありませんね」

「伝令! 伝令!」



 会議の最中だったが、一匹の魔物が飛び込んできた。



「騒々しいですね。何事です」

「はっ! 近所のおばちゃんから回覧板が届きました。至急とのことでしたのでご報告にガフゥッ」



 会議用書類の束をぶつけられひっくり返る魔物。



「会議を続けます。先遣隊はワーウルフに任せようと思います。

彼は我が軍の戦闘指揮官の経験もありますし、立派に務めを果たしてくれるでしょう」

「うむ、彼なら安心じゃ」

「異議なしでありますぞ」

「伝令! 伝令!」



 会議の最中だったが、一匹の魔物が飛び込んできた。



「……何事です」

「はっ! 巡回中に昼食のおすそわけをいただきましたので是非差し上げたいとブハァッ」



 魔力の塊をぶつけられ、その場に崩れ落ちる魔物。



「続けます。先遣隊が相手を押し留めている間に、私が東の魔王様の説得にあたります。

彼は魔王様と旧知の仲ですから、誠意をもって接すればきっとわかってくださるでしょう」

「しかし、大丈夫なのですか?」

「相手を刺激せぬよう、護衛に腕利きの者を数名だけ連れて行きます」

「なるほど。それでは大役お任せします」

「伝令! 伝れボゲェッ」



 入ってきた瞬間にボディ。ひどい。



「……用件は」



 無表情怖いです。



「は、はっ……。魔王様から、中庭でお茶でもどうかとのお誘いが……」

「皆さん、提案があります。今から私が魔王様を殺ってきて私が魔王に就任するというのはどうでしょう」

「真顔で冗談を言われると……え、冗談ですよね……?」

「半分ですね」



 やはり金髪少女は無表情のまま、しれっとそう言い放った。

 魔王軍で一番強いのは、怖いのは誰か。

 それを物言わぬまま示唆するかのような彼女の表情だった。











 昼下がり。

 今日は魔王城の地下の一室で、極秘に行われる講義があった。



「集まってくれた皆、本日はお忙しいところをありがとう。講師の魔王だ」



 教壇に立った魔王は一礼すると、用意しておいた冊子を配り始める。

 冊子の表紙は、勇者がにっこりと微笑んでいる絵が印刷されており、

 表紙をめくるとそこに『少女を制する者は世界を制す』の印字。

 彼らは、伊達や酔狂で少女が好きなのではない。

 純粋な心で少女を愛しているのである。

 だから余計にアレだとかコレだとか、そういうことはつっこんではいけない。

 冊子が行き渡ったのを見計らって、魔王はボードにペンを走らせる。



「それでは本日の議題は、最近我が城に住まうことになった勇者について。

呼び方は自由だが、投票の結果、本議会では勇者ちゃんに決定した。可愛いな」



 うんうん、とその場の魔物達が同意する。



「今日の議会は、そんな彼女の可愛らしさを徹底解剖しようと思う。それについて何か質問はあるか?」

「はい」



 一人の魔物が挙手した。

 フードをかぶった小柄な魔物である。



「はい、そこの君。どんな質問かな?」

「ええと、そのですね。……ここにいる人たち全員、減給一ヶ月です」



 フードを取ったそこには、金髪少女がいた。



「はっはっはっは。……どうしてここにいる」

「メイドからたれこみがありまして。魔王様、この城で私以上の情報網を持つ魔物はいないのですよ?」

「まあ、その辺りは基本的にお前に任せてるしな」

「そういうわけですので」



 にっこりと微笑み



「この部屋から五秒以内に出て行った方は、特別に減給対象から除外します。いーち、にー……」



 阿鼻叫喚の騒ぎになった。

 その中で、魔王だけは身動き一つせず黙って場を静観している。



「出ていかれないんですか?」

「……私だけはどうせ何をしたって叱るつもりなんだろう」

「わかっているじゃありませんか」

「短い付き合いではないからな」

「ご理解いただけて、とても嬉しいです。……覚悟も出来ていると判断します」











「あ、また地震……」



 中庭で素振りをしていた勇者が呟いた。

 魔物と戦わなくなったとはいえ、日課だった素振りはやっておかないと変な感じがするとか。



「これで本日五回目ですー♪」

「また魔王様がお叱りを受けてるんですね。わかります」



 魔王城の下働きであるメイド達がくすくす笑いながらそんなことを言っている。

 彼女達は魔王の部下ではなく金髪少女の自前の部隊だ。

 そのため魔王のことを『主人の上司』として敬愛しながらも、忠誠心はからっきし。

 「お給金さえいただければ、犬畜生にもお仕えします」とは彼女達の弁だ。

 金銭のみの関係も、そこまでくれば尊敬に値する。

 ただし、育ての親である金髪少女だけは別らしい。



「やっぱりいつものことなんだ?」

「ええ、まあ」

「あなたが来た日なんて、十回はあったよー」

「ご主人様が魔王様を止めてなかったら、あなたなんてとっくに……きゃっ、これ以上は言えませんっ♪」



 深く聞かない方が良さそうだ。

 そう思って、勇者は無心になって素振りを再開する。



「そういえば、今日の魔王様議会の議題はなんだったかしら?」

「確か『勇者ちゃんの可愛らしさ徹底解剖」』だったよ。魔王様のスケジュールに赤丸してあったもん!」

「魔王おおおおおおおどこだああああああああ!! ぶった斬ってやるううううう!!」



 剣を振りかざしながら、勇者は城へと駆けていった。











「さっきはえらい目にあったな……」



 自室へと戻ってきた魔王は、そのままベッドに倒れ込む。

 彼も相当の実力者だが、魔王軍ナンバーツーの金髪少女と勇者の二人を同時相手は荷が勝ちすぎた。

 危うく消し炭にされかかった彼は、体力回復のためにこうして自室へ舞い戻ったということだ。



「ケケケ、ひでー目にあったみてーじゃねーか」



 窓際に置いてあった人形がむくりと起き出し、ニタリと笑って魔王を見た。

 彼……いや、正確には彼女は、人形ではなく魔王が自ら作り出した使い魔だ。

 その魔力は、使い魔でありながら並の魔族を遥かにしのぐ。



「もてる男は辛いという天恵だよ」

「典型じゃねーのか?」

「何をバカな。あれこそ両手に花という状況さ」

「前門の虎、後門の狼ってノリだった気がするけどなー」



 使い魔は喉を鳴らしてうずくまる。

 吹き出しそうになるのを必死に堪えているらしかった。



「お前の目は私と繋がっているんだから、助けにきてくれても良かったんじゃないか?」

「どうして俺様が?」

「たまには使い魔らしくご主人様のピンチに颯爽と駆けつけてくれたりだな」

「相手があの金髪と勇者じゃなきゃ、給料の五割から考えてやっても良かったぜ。勝てない戦いはしない主義だ」

「正直な奴だな」

「そういう風に作ったのはお前だろ」



 そうなのである。

 使い魔でありながら、こいつはご主人に逆らえる使い魔なのだ。

 無論、魔王が無理矢理命令を聞かせることは可能である。

 だが、魔王は使い魔とすら信頼関係を築きたいと思っているらしく、今まで使い魔に何かを強制したことはなかった。



「でも、せめてスカートは捲くれないように座りなさい。せっかく綺麗なんだから」

「そんなこと言って、中、見たいんだろ?」

「……。そんなことはないよ」

「それじゃ考えるなよ。でもまあ、安心しろ」



 使い魔はよいしょと立ち上がると、スカートをたくし上げた。

 思わずぎょっとする魔王。

 だが



「ほら、半ズボンはいてっから」



 ドレスのスカートの下をたくし上げると、半ズボンだった。

 それを見た魔王は……むせび泣いた。



「な、なんということを! 半ズボンなんて私は許さん! あ、ああダサイっダサすぎる!

今すぐその半ズボンを脱ぎなさい! せっかくのドレスが台無しじゃあないか!」

「って、おおおい脱がそうとすんなパンツまで一緒にズレっ……! お、落ち着け、落ち着けって魔」



「失礼致しまっす☆ 魔王様ー、ご主人様が先ほどの無礼をお詫びしたい……と……」



 金髪少女のメイドの一人が部屋に入ってきて、固まった。

 魔王と使い魔も、それを見て完全に動きを止める。

 お人形のような(実際人形だが)少女を組み伏せ、衣服を脱がしにかかっている男。

 ドレスが乱れ、明らかに抵抗しているのが見て取れる少女。

 互いに荒れた呼吸。

 つまり、



「……失礼致しました♪」

「「ま、待てええええええ!!」」



 この時メイドが見た光景は、一分後には金髪少女に伝わり、三分後にはメイド全員に知れ渡った。

 更にその七分後に魔王城の魔物全員の知るところとなるのだが、その頃には魔王は金髪少女と勇者にハードに可愛がられていた。



「覚悟はよろしいですか魔王様?」

「言い残すことがあるなら、聞く」

「な、なら一つだけ。――君たちの愛が痛いほど伝わってくるよ」



 魔王の断末魔が城内に響き渡った。



「……ノーコメントだぜ」



 メイドの突撃インタビューを受けた使い魔は、終始そう答え続けたという。











 そうして魔王は日夜戦いを繰り広げる。

 魔物と人間の共生を実現するために。

 ロリコンという言葉を蔑称ではなく敬称として世に広めるために。

 彼は今日も戦い続ける。

 それこそが彼の世界征服となりえるのである。



 がんばれ、僕らの魔王様。

 いけいけ、僕らの魔王様!



 おしまい……?