閑話休題「伝達」
空は小鳥もさえずる陽気である。
にも関わらず、その部屋だけは夜の闇に包まれているようだった。
暗く、湿った空気。
部屋の中央に描かれた魔法陣の中心に、何かの動物の干乾びた手足や骨が散乱している。
それが床一面に広がる赤黒い液体に浸かっていた。
ちゃぷ……
水面に波紋が広がる。
魔法陣の隅で横たわっていたその人――ユユは、生気のない目を見開いた。
自分が血溜まりの中にいることに気付いて、口の端を不気味に歪ませる。
手元に転がっていた杖を手にすると、まるで目覚めたかのように沈黙していた先端の髑髏がカタカタと顎を鳴らした。
「クス……『あら、儀式の最中に眠ってしまっていたみたいですの』」
口から流れ出ていた大量の血液が胸元まで汚している。
口元だけをぐっと拭い、ユユは緩慢な動きで立ち上がった。
その瞬間、再びゴヴァッと血を噴出し、けほけほと数度咳き込む。
(日の出ている時間帯は体調がよろしくありませんの)
彼女の人生で、一般的に見て体調が良かったことなど一度も無いが、昼間は輪をかけて悪い。
闇属性に偏った身体は、光属性の塊であるあの太陽とかいうものの光の刺激が苦手なのである。
あれが照っているだけで、ユユはそこはかとなく憂鬱な気分になる。
顔色も余計に悪くなり、独り言が増える。
それが彼女の近寄り難い雰囲気を助長させ、ますます彼女は孤立するのだ。
まあ彼女に言わせれば、『いつもお友達とご一緒してますのよ?』ということらしいのだが。
と、ユユが魔法陣の上に散らばった道具を片付けていると、部屋の扉をすり抜けて人魂が近づいてきた。
彼女のお友達の一人(?)である。
少しだけ手を止めて、にこり(ニヤリ、としか見えないが)と微笑んだ。
人魂は、ユユの周りをゆっくりと旋回し、ちかちかとせわしなく明滅を繰り返す。
「クスクスクス……『そうですの。ようやく始まるんですのね』クスクスクス……」
明滅に合わせて、ユユは楽しげに頷いた。
その拍子に口元から血がこぼれたが、本人は気にした風ではない。
「クス……『何を言われるのか楽しみですの』」
教室に集まった四人が、それぞれある程度の緊張を感じているようだった。
普段に比べて、お喋りなイリスの口数も少ない。
エンジェレットは鉄扇を開いたり閉じたりしていて、逆に落ち着きが無い。
静かに読書をたしなんでいるククルーの持つ本は、上下逆さになっている。
唯一ユユだけが、いつもとあまり変わらない調子でクスクスと笑っていた。
四人の前に立つサーザイトが四人の顔を見回し、おもむろに口を開く。
「あー……呼び出すときに、もう言ったと思うんだが、改めて言う」
気だるそうな吐息と共に、
「卒業試験の内容を伝える」